ほめて育てる

“ほめて育てる”とは、よく聞かれる言葉ですが、実は「言うは易く、行うは難し」ことなのです。“ほめて育てる”とはABA的に言えば、「強化」ということなのですが、ここではその「強化」のポイントについて解説します。

発達に遅れや偏りがある子どもに対して、“ほめて育てる”ことが難しい理由には、次のようなことが挙げられます。

 ✔ 感覚過敏ゆえに…頭を撫でたことが、逆に不快な刺激になってしまう
 ✔ 表情が読み取れないゆえに…微笑んでも、その気持ちが伝わらない
 ✔ 興味の範囲の狭さやこだわりゆえに…一般的なご褒美に対して、喜んでくれない

まずここで押さえておくべきことは、好きな(喜ぶ)もの・ことは、子どもによって異なるということです。ということは時に、大人にとって「してほしくないこと」が、子どもにとっては「好きなこと」になっていることもあります。そこでまずは、子どもの“好きなこと(もの)探し”から始める必要があります。子どもが好きなこと(もの)のことを、「好子」(こうし)とか、「強化子」(きょうかし)と言います。

この好子探しのヒントですが、次のような観点で探ってみましょう。

 ✔「好きな関わり方は?」
 ✔「好きな食べ物は?」
 ✔「好きな場所は?」
 ✔「好きな物は?」
 ✔「好きな活動や遊びは?」

これらをリストアップしておくと、役に立ちます。

次に、伝わるほめ方を考えます。子どもの年齢や性別や場面に適したほめ方が大事になります。例えば、幼稚すぎるほめ方は場合によると逆効果になることもあるので、注意が必要です。また、言葉や表情だけではほめられていることが理解できない場合もあり、この場合はスキンシップ(握手、抱っこ、くすぐりなど)が有効な場合もあります。あるいは、大人が一緒に好きな活動をすることも効果があります。この場合は、どんな活動をしたいか子どもに選ばせる「自己決定」の要素を入れると、なお効果的です。あと、注意すべきことは、集団の中でほめる場合です。この場合は、ほめ方をさりげなくして目立たないような工夫が必要になります。

うまくほめることが難しい原因の一つに、“ほめる基準が高すぎる”ことが挙げられます。ほめる基準が高すぎると、子ども自身としては頑張っているつもりでも、それではほめられないということが起こりえます。すると、子どもはほめられることがないために、せっかく頑張っているその行動が増えたり維持されることにつながらないわけです。
そこで大事なことは、「ほめる基準を下げる」こと、別の言い方をすれば、「目標達成までのスモールステップを刻む」ということになります。

では次に、スモールステップの刻み方の例をお示しします。おもちゃの片づけが全くできない子どもがいるとします。この子どもに対して、どのようにスモールステップを刻んだらよいのでしょうか?

 第1段階:おもちゃを手渡して、大きな箱に入れさせる→大いにほめる
 第2段階:箱の位置を遠ざけ、手渡して入れさせる→大いにほめる
 第3段階:おもちゃを自分で拾わせて、入れさせる→大いにほめる
 最終段階:棚の中の箱に、自分で拾って入れる→大いにほめる

これは一つの例ですが、ここで大事なことは「どの段階においても、その段階における目標(標的行動)が達成できたら、大いにほめる」ということです。大いにほめる、すなわち十分に「強化」することを通して、その標的行動を維持・増加させるわけです。

スモールステップを刻むコツですが、次のようなことが挙げられます。

① 子どもによって、刻むステップの幅や数は異なります
 同じ目標を達成するのに、3ステップでできる子どももいれば、5ステップ必要な子どももいるのです。
② ステップアップは慎重に行います
 達成基準をいきなり引き上げると、失敗します。ケースバイケースですが、一つの行動が十分に定着したことを見極めてから、少しずつ上げていくのが原則です。
③ 自己決定の要素も取り入れていきます
 目標設定は子どもと一緒に考えると、より効果的です。

強化の原則には、大きく次の2つがあります。

⑴ 「即時強化」の原則
 頑張っていることを1週間後にほめられても、子どもはピンときません。その場ですぐにほめることが大事です!
⑵ 「間欠強化」の原則
 いったん目標とする行動(標的行動)を獲得したら、毎回ほめる(これを「連続強化」と言います)必要はありません。むしろ、時々ほめる(間欠強化)方がその行動は定着しやすいのです。

「強化」の流れが定着してきたら、「トークン・エコノミー」へ移行することを考えます。例えば、好きな活動(ゲームなど)を好子にしている場合は、強化したくてもその場でそれを与えることが難しい場合もあります。そこで、その替わりになる「トークン」(代用貨幣)を与えることで、その場をしのぎます。このやり方を「トークン・エコノミー」と言うのです。

トークン・エコノミーの進め方は、次のような手順になります。

 ① 望ましい行動が出現したら、トークンを与えます。
 ② トークンはシートなどに貯めていきます。
 ③ 一定数のトークンが貯まったら、好きな活動や物と交換できます。

③で交換できる活動や物のことを「バックアップ強化子」と言います。このバックアップ強化子は、いくつかの中から選択できるようにしておくと、さらに効果的です。

トークンになりうるものは、具体的で与えやすく、貯めやすいものなら何でもよいのです。例えば、次のようなものが挙げられます。

 ✔シール
 ✔スタンプ
 ✔チップ(コインなど)
 ✔チェックマーク(花丸など)
 ✔パズルのピース

このトークン・エコノミーですが、応用して望ましくない行動を減らすことにも使えます。その手続きは、次のようになります。

 ① してはいけないことを予め、子どもと相談しながら決めておきます。
 ② その行動をしてしまったら、決めた数のトークンを淡々と事務的に取り上げます。

このやり方を「レスポンスコスト」と言います。ここで大事なことは、「子どもと十分に相談して、子どもの納得ずくで実行する」ということです。大人が一方的にルールを設定して実行することは、トラブルの元になります。

最後にアメリカのものですが、不連続試行法(DTT)中での「強化」(reinforcement)の様子を映している動画があったので紹介します。
https://youtu.be/crFjZlWWZo0

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